制作

アンフィル『Step bye step』

パロニリアパロニリアパロニリア。
一度覚えたら半日は癖になるその楽曲タイトルに恥じぬ中毒性を備えた猛烈嫉妬劇を抜けると、そこには信じられないくらいの澄んだ青空が広がっておりました。
雲の上で濁った感情募らせる彼の想いなど知る由もなく、新たな恋人と肩を寄せ合う彼女の心模様を切り抜いた『Step bye step』。

この歌には、互いを強く想い合っていた二人の間に生じる思考のズレが鮮明に描かれています。
男にとっては幸か不幸か、彼女が今笑顔でいる日常は、他でもない彼への想いあってこそのものだったのです。

「自分のことを忘れないでほしい。二人でいられない世界を憂いでほしい」と願ってしまう彼と、「いつまでも俯いていたら彼を不安にさせるばかりだから、空まで届くように笑って今日を生きよう」と気丈に振る舞う彼女。
永遠に解かれることのない誤解の全容を知るのは私たち聴き手のみという、なんとも心苦しい二作ではありますが、まったく救いがないかと言われるとそうでもないように思えます。
それはきっと、この歌全体に漂う温もりのせいでしょう。

再生ボタンに触れた瞬間に心地よく上昇するクリーンなギターと、そこへ飛び乗る人懐っこいリズムが彼女を取り巻く穏やかな環境を表し、そこへ降りる翔梧さんの艶めいた歌声が彼女の内面に隠された憂いを映す。
音と声の温度差によって、人間の入り組んだ感情を見事に表現する手腕はサスガの一言!
とは言ってみても、それで心躍るのはあくまでもこちら側の話であって、雲上の彼が報われないことにはなんら変わりないんですけどね。

『ちょっと座って深呼吸して ほら見上げれば太陽が微笑んでる』という彼女の言葉も、彼の心情を知る身からするとでら切ないものです。
「いやいや、ちっとも微笑んじゃいないヨ!」なんてツッコミも、この上質な音楽の中へ投げつけるにはあまりに野暮。
忘れるどころか、一曲を通してずっと彼のことを想い続けている彼女を良く思うか悪く思うか。
それは、聴き手の恋愛観によって大きく分かれることでしょう。

誤字を疑わせる楽曲タイトルに本来必要ではない『e』が存在する理由。
それは、この歌を実際に聴いて初めて知ることが出来ますので、気になる方は是非『パロニリア』『Step bye step』をセットで手に入れてみてください。

良い演奏、良い詩、良い声を求めるすべての方々にどうしても触れていただきたい秀逸なる二部作シングル。
その魅力をこんなにも拙い文章でしか語れないなんて!やるせない!アンフィル!