制作

LIPHLICH TIMES 6『発明』

「LIPHLICHらしいLIPHLICH」の最終章となった前作『DOUBLE FEATURE』の終演後、不埒な黒幕久我新悟が過去作の主人公たちを舞台裏におびき寄せ、各々の喉元にかけたその長い指で彼らを愛憎たっぷりに眠らせた。
はじめからそうなる運命であることを察していたかの様、抵抗する者は誰一人存在しなかったという。

彼らが非情な運命に抗わなかった理由。
それは、焦らすことなく本作一曲目のドドド頭で明かされている。
本作で描かれているのは、大勢が深い眠りについた「その後」のお話。
どこのどんな聴き手よりも飽き性なリフリッチが生んだこの最新作が被害者ウェンディの抱える莫大な「思い入れ」を超えられるか否か。
その勝敗は、他の誰でもないあなた様に委ねられているんだとか。
言わば、なんにでも判決を下したがるいつかのガベル・マンと二人のアクターのような関係性。
とはいえ、おそらく片道350円以上の交通費をかけてまで今日という日にこうしてお越しいただいている時点で、その結果を尋ねるなど愚問にして野暮の極みでございます。
過去のどの瞬間よりも今が最も刺激的で格好良いバンドを永続的に好きでいられる喜び。
それを我々は「LIPHLICH」と、そう呼んでいるのかもしれません。

いやぁしかし、思い返せば数奇な運命を歩まされた登場人物ズが存在したものです。眠らせるには実に惜しい!

例えば、目利きもろくに出来ない他所様のために偏屈シェフが皮肉をふるった『フルコースは逆さから』
「この世の楽園」を自負しながら、蓋を開けりゃあ退去不可能な欲望の巣窟『マズロウマンション』
あらゆる事象に必然性と理由を求めたがるニンゲンを斜め後ろから賞賛した『GRATEFUL NONSENSE』
「ペテン師」を名乗るものの、実は誰よりも正直者であった男の求愛劇『SKAM LIFE』などなどどなるど。

そんな作品たちとは打って変わって、本作のタイトルはなんともまぁ仰々しい『発明』
唄のなかの象徴的な言葉を切り抜いた演題ではなく、「曲を創ること・アーティストであること」そのものをコンセプトに掲げた極めて崇高な芸術的シーデーでございマスカラしてー、ファンデしてー、チークしてー、果てには濃厚なリップサービスにまで至る官能的な12曲。
下手に憶測など立てるものではございませんが、とても人様には見せられない様なハシタナイ表情を浮かべながら本作を嗜んでこられた方も多いのではないでしょうか。

『発明家A』の悪趣味な問い掛けから気怠く幕をあける12のストーリー。さながらクロック。チクタクチクタク。
新井崇之の手により、秒単位で表情を変えてゆく目まぐるしき叙情歌『メランコリー』に朝焼けの憂鬱を見て、進藤渉が美容家でもヒール屋でもなく、紛れもない敏腕ベーシストであることを強烈に再認識させられる鬼のSlap SM Show『SLAP TEA TIME』で優雅とは縁遠い物騒な昼下がりを過ごし、夕方には話術に反して作曲では滑り知らずな小林孝聡の熱血歌唱に腰を抜かす特撮モノ『三原色ダダ』で老若男女がエキサイト!
そして、深い夜のご褒美には静かなる情熱歌『星の歯車』を。

なによりも「変化」を求めた本作に見受けられる唯一の既視感は、あまりにも脆く美しいバンドの意思と願いでした。
かつては『何の為に生きる 誰の為に生きる』と、自身の存在価値、その所在に頭をグルグル悩ませていた孤独な笛吹きが、今は『在るために歌ってる』と確信めいた言葉を綴り、さらにはその音の先にあるひとりひとりを自慢の歌声で指さしながら、『愛すべき人が いつも側で待ってるから』とまで言い切る始末。
いやはや、生きていると不思議なことに多く出逢うものですね。

ヘイガール。「地上に存在するおかしなこと」その最たるものとされている4人の男たちと人目につかない地下室で落ち合う覚悟はお済み?こんな罪色したサンデーを心から楽しむには少しズレた感性と家族の理解が必要不可欠。
歪んだ偏愛を餌とする「ヴィジュアル系」に難色を示すご親族がいらっしゃる場合におきましても、当店はアリバイ工作に一切協力できませんので、予めご了承のほどを。せめてもの罪滅ぼしとして、200円で一日お荷物をお預かり致します(クロークってやつ)ので、ご希望のお客様はお気軽に2階レジスタッフまでお声掛けくださいませ。

それでは、2017年一発目となるLIPHLICHとの豪遊と、各部ごとに待ち受けるアラサー殺しの急階段、その絶望的往復運動をお楽しみください。
心身ともに痺れる素敵な日となりますように。