Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多系統萎縮症における閉塞型睡眠時無呼吸の重症度は呼吸の不安定性により決定される

2018年11月10日 | 脊髄小脳変性症
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の重症度は,肥満,もしくは小顎症のような顔の骨格により影響を受ける.これらが存在すると上気道が狭窄・閉塞しやすくなるためである.しかし経験的に多系統萎縮症(MSA)においてはこの知見は当てはまらないことが分かっていた.つまりMSAでは肥満を認めなくても高頻度に閉塞型SASを認めるのだ.

理論的,実験的に,閉塞型SASの重症度には4つの因子が関与することが知られている.(1)解剖学的な上気道のつぶれやすさ,(2)上気道の開大筋反応,(3)呼吸の不安定さ,(4)覚醒のしやすさである.最も重要な因子は(1)解剖学的な上気道のつぶれやすさであり,肥満はこの状態を引き起こす.MSAが肥満による影響を受けないとしたら,当然,(1)以外の因子が関与しているということになる.ではMSAのSASはどの因子に影響を受けるのか?この問題はMSA研究者にとっては大きな謎であった.東京医大の中山秀章先生と私どものグループはこの問題に取り組み,「近似エントロピー(approximate entropy;ApEn)」という概念を導入し,(3)の「呼吸の不安定性」がMSAの閉塞型SASの重症度を決定していることを初めて明らかにした.

研究の仮説として,MSAの一部の症例では,中枢型SASやCheyne-Stokes呼吸,CPAP開始後に中枢性SASが顕在化するcomplex SASを呈することから,中枢性呼吸調節障害に基づく呼吸の不安定性が存在し,その程度が閉塞型SASの重症度を決定していると考えた.そして本研究では,呼吸の不安定性の指標として「近似エントロピー(ApEn)」を用いた.ApEnは小さいほど規則性が高く,大きいほど低い(不安定である).具体的には(筋電図をもとにアーチファクトが存在しない)就寝前の胸壁運動をプレチスモグラフで記録し,ApEnを算出した.図1の患者AとBを比較すると,一見して,患者Bの呼吸が不安定な印象を持たれると思うが,実際にApEnは患者Aで0.74,患者Bで1.56と,患者Bで高値となっている.ちなみに呼吸の不安定性は,脳梗塞,心不全,オピオイド使用などで報告されている.


対象はMSA群20名(罹病期間3.3±2.0年),対照群20名.終夜ポリソムノグラフィを行い,無呼吸低呼吸指数(AHI)を算出した.ApEnに加え,BMIや罹病期間,MSAの重症度,そのほかのPSG所見を集積し,相関を検討した.この結果,分かったことは以下の2点である.
(1)MSA群は対照群と比較して,呼吸の不安定性が有意に高い(ApEn 1.28 vs 1.11, P<0.05)
(2)多変量解析の結果,MSAではAHIにApEnが相関するが,BMIは相関しない.逆に対照群ではAHIにBMIが相関するが,ApEnは相関しない(図2).
つまりMSAの閉塞型SASでは呼吸の不安定性が重要で,対照群では体重が重要な影響因子であることがわかる.一方,ApEnと疾患重症度,罹病期間には相関は認めなかった.


結論としてMSAでは就眠前にも呼吸の不安定性が認められ,閉塞型SASの重症度を決定していることが初めて明らかになった.

J Clin Sleep Med. 2018;14:1661-1667.

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