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プリウス・リコール問題の危機対応に失敗したトヨタ 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原信郎

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危機対応の失敗が不祥事の拡大を招く例として、今回は、2010年に発生したトヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」のリコールをめぐる問題を取り上げる。

プリウスのブレーキ不具合は特殊な状況下でのみ起こる問題

トヨタは2010年2月9日、3代目プリウスなどのブレーキの不具合を理由に、国内外で計43万7000台を対象としたリコール(無償修理)を実施することを発表した。

不具合の内容は、「凍った道や凸凹した路面上で、低速で走行している場合において、ドライバーに『ブレーキが利きにくい』という違和感を与える場合がある」というもので、その原因は、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の設定にあることが判明した。

ABSとは、急ブレーキ時や凍結路面などの走行時にタイヤがロックしてスリップするのを防ぐ装置であり、ブレーキ操作と解除を繰り返す、いわゆるポンピングブレーキの動きを自動で行う仕組みだ。

3代目プリウスでは、ABS作動時の振動や異音を消し、より快適性を向上させるために設定を変更しており、変更後の設定では、ABSが作動してからブレーキが切り替わるまでの時間が従来型に比べて若干長かったために、低速でブレーキを踏んだ際に一瞬空走感を感じることがあるということだった。その場合であっても強く踏み込めばブレーキは問題なく利く。ブレーキの性能は保安基準に合致していた。

このような「ABSの設定変更」を行った3代目プリウスは2009年5月に発売されたが、同年秋頃には「ブレーキが利きにくい」という苦情が月に2、3件程度発生し、12月になると苦情の数が増えたことを受け、トヨタは、1月以降に販売した車については、ABSの設定を従来のものに戻していた。

つまり、問題となったのは、一定の状態の路面でABSが低速で作動する、という極めてまれな条件下において、一部の人が違和感を持つ、という、かなり限局された事象であった。

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